アムステルダムに移り住むとき、最初に決めなければならないのが「どこに住むか」です。そして多くの人が、この判断を家賃と通勤時間だけで下そうとして、あとから苦労します。
理由はシンプルで、子どもがいる家庭の場合、住む場所を決めた瞬間に通学先の選択肢がほぼ確定してしまうからです。オランダでは10歳前後まで保護者の送迎が前提になるため、学校と自宅の距離は毎日の生活時間そのものを左右します。
この記事では、アムステルダムとその周辺のエリアを、学校、通勤、暮らしやすさ、そして家賃という4つの軸で整理します。「どこがいい街か」ではなく、「どういう家庭にどこが合うか」という書き方をします。
先に結論
タイプ別に、まず結論だけ書きます。
日本人学校または日系幼稚園を使う可能性がある アムステルフェーン一択に近くなります。スクールバスの停留所へのアクセスが生活を決めます。
インターナショナルスクールに通わせる 学校が南側に集中しているため、アムステルフェーンかアムステルダム・ザウト周辺が合理的です。
現地校に通わせる、または子どもがいない 選択肢は一気に広がります。市内の各地区、あるいはハールレムなどの近郊都市も現実的です。
とにかく家賃を抑えたい リング道路の外側、あるいは電車で30分圏内の近郊都市。ただし近郊も値上がりが進んでいます。
都市生活そのものを楽しみたい デ・パイプ、アウト・ウェスト、オースト。ただし家族向けの広さを求めると急に難しくなります。

Han Jongeneel / CC BY 3.0 — Wikimedia Commons
第1部:エリアを決める前に、順番を間違えない
決める順番は「学校、通勤、家賃」
海外赴任や移住の準備では、家探しから始めたくなります。しかし子連れの場合、順番を逆にしたほうが失敗しません。
まず通勤圏を大まかに押さえる。次にその範囲内で通える学校と通学方法を検討する。そのうえで住む場所のあたりをつける。この順番です。
学校を先に決めるべき理由は3つあります。
第一に、インターナショナルスクールにはウェイティングリストがあり、希望のタイミングで入学できないことがあります。第二に、現地校は住所によって優先校が決まる仕組みで、しかも必ずしも希望校に入れるとは限りません。第三に、日本人学校のスクールバスは停留所が限られており、住む場所によって使えるかどうかが変わります。
逆に、現地の保育園や幼稚園については、住む場所を先に決めてから最寄りを探せば足ります。空きがあれば入れる仕組みなので、これを基準に家探しをする必要はほとんどありません。
ただし「学校ありき」も難しい
正直に書いておくと、現地校を希望する場合、学校を起点に住む場所を決めるのは難しいのが実情です。
移民の増加と教員不足を背景に、多くの学校が定員に余裕を持てなくなっています。年度途中から希望の小学校に入るのは、かなり厳しくなっています。アムステルフェーン市では公平性を保つためにコンピューターによる抽選が導入されており、申込時期の早さは有利に働きません。
つまり「この学校に入れたいから、この地区に住む」という発想は、現地校では通用しにくい。「この地区に住めば、この4校か8校のどれかになる」という理解が正確です。
送迎の現実を計算に入れる
オランダでは10歳前後まで、学校、公園、習い事、友達の家まで、すべてに保護者か年上の同伴が必要です。小学校が終わる午後2時から3時には迎えに行くことになります。
日本人学校のスクールバスは保護者主体で運営されており、最寄りの停留所まで子どもを送迎する必要があります。学童保育はありません。共働きでフルタイムを想定している場合、この点は住む場所選び以前の大きな制約になります。
インターナショナルスクールには提携の学童があることが多いのですが、有料シャトルサービスがある学校でも、学童終わりの迎えは対象外で保護者対応になるのが一般的です。結果として、学校の近くに住むほうが圧倒的に楽になります。
なお、学童保育に対する自治体の補助には差があり、共働き家庭にとってはアムステルダム市のほうが条件が良いとされています。アムステルフェーンと迷っている共働き家庭は、この点も比較材料になります。
第2部:家賃の目安(2026年)
エリアの話に入る前に、相場感を共有しておきます。
アムステルダムはオランダで最も家賃の高い都市です。2026年時点で、市内平均は1平方メートルあたり28ユーロ台。1ベッドルームの募集は月1,850ユーロ前後が典型で、この物件を借りるには月収5,500ユーロ程度を求められます。多くの物件で家賃の3倍前後の収入証明が条件になるためです。
地区による差は大きく、アウト・ウェストやデ・パイプでは1平方メートルあたり30ユーロ前後。一方、IJburgや東部港湾地区は18ユーロ前後と、市内で最も安い部類に入ります。
近郊に出ると差はさらに明確です。2026年初頭の水準で、ハールレムが1平方メートルあたり24ユーロ前後、アルメーレは20ユーロを下回ります。
ただし注意点があります。アルメーレの家賃は前年比で14パーセント以上上昇しており、「近郊は安い」という前提は年々崩れつつあります。逃げ道が見つかれば、そこも混むということです。
もうひとつ知っておきたいのが、社会住宅(social housing)の存在です。アムステルダムの住宅ストックのかなりの部分を占めており、2026年の家賃上限は月932.93ユーロ。ただし待機期間は10年から15年と言われ、移住者が現実的に狙えるものではありません。移住者が競争するのは、残された民間賃貸の枠です。市場が異常に厳しい理由の一端はここにあります。
購入を検討する場合の目安も挙げておきます。2026年時点で、中心部とザウトは1平方メートルあたり8,000ユーロから13,000ユーロ。西部が6,500ユーロから8,000ユーロ、ノールトが5,500ユーロから7,500ユーロ、ニューウェストが5,000ユーロから6,500ユーロといったレンジです。
第3部:エリア別ガイド
アムステルフェーン:日本人家庭の定番
アムステルダム市の南に隣接する人口9万人ほどの市です。オランダ国内で日本人が最も多く住む自治体で、日本企業のヨーロッパ拠点が集まっていることが背景にあります。
日本人にとっての利便性は突出しています。日本韓国食材店、日系の塾や習い事、日本語で受診できる医療機関、日本人コミュニティ。日本語だけでも生活が成り立つと言われるほどです。空港へのアクセスも良く、中心部からバスで10分程度でスキポールに出られます。
一方で、この利便性は裏返しでもあります。日本語環境に留まりやすく、オランダ社会との接点が薄くなりやすい。それを不安に感じる人もいれば、駐在期間が限られているなら合理的だと考える人もいます。ここは家庭の方針次第です。
アムステルフェーンの中でも、住む場所の性格はかなり違います。
Westwijk周辺 昔からの日本人街で、ショッピングモール内に日本韓国食材店があります。郊外らしくのどかで落ち着いた環境。刺激は少なめですが、子育て世帯には過ごしやすい。日本人学校行きのバス停留所がモール付近に複数あります。近くにインターナショナルスクールがあり、併設のバイリンガル学童も利用できます。
Stadshart周辺、Oranjebaan駅付近 大型ショッピングモールがあり、トラムとバスの結節点で交通の便が良いエリアです。毎週金曜日にはマーケットが立ち、新鮮な肉や魚、野菜を求めて日本人も多く訪れます。2025年11月末には日本食スーパーが新たに開店し、アジア食材店の出店計画もあります。再開発も予定されており、今後の変化が見込まれるエリアです。周辺のインターナショナルスクールへのアクセスも良く、インターに通わせる家庭も多く住んでいます。
Gelderlandplein付近 行政区としてはアムステルダム市側になりますが、生活圏としてはアムステルフェーンと連続しています。洗練されたショッピングモールに日本韓国食材店があり、モールへの無料バスも走っています。ザウト駅周辺はオフィスが多く都会的な雰囲気で、通勤利便性を重視する家庭に向きます。アムステルダム市民になるため、子どもの市内公共交通が無料になる制度の対象にもなります。
このほか、Groenhof、Brink、Kronenburg、Zonnesteinといった商業施設の周辺にも日本人家庭が住んでいます。日本食材店や塾は、これらのエリアに分散して立地しています。
アムステルダム・ザウト(Zuid):通勤と学校の交差点
Zuidasと呼ばれるビジネス地区を抱え、国際企業のオフィスが集中しています。空港へも中心部へも出やすく、インターナショナルスクールへのアクセスも良い。通勤と教育の両方で合理的なエリアです。
そのぶん家賃も購入価格も市内最高水準です。Oud-Zuidは古くからの高級住宅地で、静かで落ち着いた環境。Nieuw-Zuidも同様に閑静です。Buitenveldertは中心部から20分から30分ほどで、アムステルフェーンと隣接しており、日本人家庭にとっては生活圏が重なります。
デ・パイプ、アウト・ウェスト:都市生活を選ぶなら
デ・パイプはかつて庶民的な地区でしたが、いまはトレンディで高級化が進んでいます。マーケットとカフェとレストランが密集し、街歩きが楽しい。学生も多く住みます。
アウト・ウェストは旧トラム車庫を再生した複合施設をきっかけに人気が高まったエリアです。中心部まで歩ける距離にありながら、地産地消のマーケットが毎日のように立ち、子どもが遊べる公園も多い。住民の多様性を反映して、各国の本格的な料理が楽しめます。
どちらも1平方メートルあたり30ユーロ前後と市内で高い部類ですが、単身者やカップル、あるいは子どもがまだ小さい家庭には魅力的な選択肢です。逆に、部屋数と広さを求めると急に条件が厳しくなります。
ヨルダーンは運河沿いの美しい街並みで最も人気のあるエリアのひとつですが、家賃は高く、空き物件は希少です。
ノールト:変化の途中にあるエリア
IJ湾の北側。かつては工業地帯でしたが、再開発が進み、新築の集合住宅とファミリー向け住宅が増えています。購入価格は市内では手が届きやすい部類で、長期的な資産価値の伸びを期待して選ぶ人もいます。
中心部へはフェリーとメトロでつながっています。「川の向こう」という心理的な距離感をどう捉えるかで評価が分かれるエリアです。
IJburg、東部港湾地区:家賃で選ぶなら
IJburgは埋め立てで造成された人工島群です。市内では家賃が最も安い部類に入り、1平方メートルあたり18ユーロ前後。新しい街なので住宅も新しく、水辺の環境で子育てには向いています。トレードオフは中心部からの距離です。都市の刺激を求める人には物足りなく感じられます。
ザウトオースト(Bijlmer):評価が分かれるエリア
市の南東部。かつての大規模団地の印象から、いまだに評価が固定されがちなエリアですが、再開発が進んで街の姿は変わってきています。国際的なインターナショナルスクールのキャンパスがあり、大型のアジア食材店や業務用スーパーが集まる一帯もあるため、日本食材の調達という点ではむしろ便利です。
家賃は市内では相対的に抑えられます。ただし地区内でも場所によって雰囲気の差が大きいため、一括りにした評判ではなく、実際に歩いて判断することを強くおすすめします。
近郊都市という選択肢
市内で8週間探して見つからないなら、リングの外に視野を広げるのは敗北ではなく合理的な判断です。実際、30分圏内で柔軟に探す人のほうが、ひとつの郵便番号にこだわる人より早く家を見つける傾向があります。
ハールレム アムステルダム西方の古都。美しい街並みと落ち着いた雰囲気があり、電車で15分から25分程度。家賃はアムステルダムより明確に安く、1平方メートルあたり24ユーロ前後。「街としての魅力を保ちながら、家賃を下げたい」という層に最も選ばれています。海も近い。
ホーフドルプ スキポール空港のあるハールレマーメール市の中心。空港勤務者や、頻繁に出張する人には合理的です。新しい住宅が多く、家族向けの広さが確保しやすい。
ディーメン、ザーンダム アムステルダムに隣接し、通勤時間の短さでは近郊の中でも有利です。予算を抑えつつ通勤時間を犠牲にしたくない場合の現実解になります。
アルメーレ フレヴォラント州の新興都市。1ユーロあたりで得られる住宅面積は最大級です。ただし家賃の上昇率が高く、この優位は縮まりつつあります。
プルメレント 静かで家族向けのスペースが取りやすい。都市の刺激より生活の落ち着きを優先する家庭向けです。

Han Jongeneel / CC BY 3.0 — Wikimedia Commons
第4部:学校からエリアを逆算する
主な学校の立地と、そこから見た住まいの候補を整理します。
日本人学校(アムステルダム西部)と日系幼稚園 学校自体はアムステルダム西部にありますが、通学はスクールバスが中心です。そのため、住まいはバス停留所へのアクセスで選ぶことになります。日本人が多く、アクセスの良いエリアはWestwijk周辺、Stadshart周辺、Gelderlandplein付近の3つです。
日系幼稚園は2025年に移転しており、園バスの運行体制も見直しが進んでいます。検討中の家庭は、最新の停留所とルートを必ず園と学校に直接確認してください。
ダッチインターナショナルスクール オランダ政府の補助があるため、私立インターに比べて学費が抑えられます。会社の学費補助の上限が日本人学校基準になっている場合、ダッチインターから探すほうが負担が軽くなります。
代表的な学校は南部に複数キャンパスを構えており、トラムやバスでアクセスできる範囲にアムステルフェーンとザウトの主要エリアが収まります。有料のドアツードアのシャトルサービスがある学校もありますが、人数が集まらないと運行されないことがあるため、確認が必要です。
学費がほとんどかからないバイリンガル校もありますが、ウェイティングはかなり長く、短期駐在では待ちきれない可能性があります。
私立インターナショナルスクール 2歳から3歳で入学できる学校もあり、小さい年齢では週2日や3日のコースを選べる場合があります。会社の補助額に合わせて調整できるのは利点です。学費は高額ですが施設が充実しています。多くが南部に立地しており、徒歩圏かトラム・バス圏に住むのが現実的です。
なお、ダッチインターが現地校と同じ学年暦なのに対して、私立インターは学校ごとに独自の年間カレンダーを持ちます。オランダの休暇ハイシーズンを外して旅行に行けるのは、地味ですが大きなメリットです。
現地校 アムステルフェーン市では住所から近い4校、アムステルダム市では8校が優先校になります。申込期限は子どもが3歳ごろ。自分の住所からの優先校がどこか、子どもの誕生日だと期限がいつかは、各市の公式サイトで調べられます。
多くの学校が英語での見学ツアーを実施しています。すでに期限を過ぎてしまった場合や質問がある場合、アムステルフェーン市には教育相談の窓口があります。
補習校 インターや現地校に通わせながら、帰国を見据えて土曜日の日本語補習校に通わせる家庭も多くあります。補習校は日本人学校の校舎を使っており、スクールバスはありません。
第5部:通勤の考え方
オランダでの通勤時間の感覚は、日本とかなり違います。
自転車で15分から20分は「近い」の範囲です。市内であれば、多くの移動が自転車で完結します。トラムとメトロが網の目のように走っており、乗り換えなしで行けるかどうかが体感を大きく左右します。雨の日に自転車を避けたい家庭は、トラム1本で通えるかを確認してください。
近郊都市からの通勤は鉄道が基本です。ハールレムから中心部までは15分から25分、ホーフドルプやアルメーレからも30分前後。日本の首都圏の感覚からすると、これは十分に「近い」部類に入ります。
ただし遅延やキャンセルは日常的に起こります。振替輸送のような仕組みはなく、次の電車を待つかバスを探すことになります。始業時間に厳格な職場であれば、余裕を持ったルート設計が必要です。
車についても触れておきます。アムステルダム市内は駐車料金が高く、駐車許可証の取得も簡単ではありません。市内に住むなら車なしが前提です。逆にアムステルフェーンや近郊都市では、車があると生活の幅が広がります。日系幼稚園や習い事の送迎を考えると、車があるほうが楽な場面は多くあります。
第6部:エリアを決める前のチェックリスト
- 勤務先の場所と、許容できる通勤時間の上限を決める
- 子どもの通学先の候補を3つ程度に絞り、それぞれの通学方法を確認する
- 日本人学校の可能性があるなら、スクールバスの現在の停留所を学校に直接確認する
- インターを検討するなら、ウェイティングの状況とシャトルサービスの有無を各校に確認する5. 現地校を検討するなら、候補エリアの優先校と申込期限を市の公式サイトで確認する
- 共働きなら、学童の有無と迎えの動線、自治体の補助条件を確認する
- 家賃の上限と、それに必要な収入証明の水準を逆算する
- 候補エリアを実際に歩く。とくに平日の夕方と週末の両方
- 近隣にスーパー、かかりつけ医、子どもの遊び場があるかを確認する
- 市内にこだわるか、近郊まで広げるかを、8週間程度の探索期間を目安に判断する
まとめ
アムステルダム周辺のエリア選びは、突き詰めると「何を優先するか」の問題です。
日本語環境の安心を取るならアムステルフェーン。通勤とインターの利便を取るならザウト周辺。都市生活の密度を取るならデ・パイプやアウト・ウェスト。面積と家賃を取るならIJburgか近郊都市。どれかが正解というものではありません。ただ、ひとつだけ言えるのは、住宅市場が厳しいこの街では、条件を絞りすぎると何も見つからないということです。ひとつの地区に固執するより、30分圏という「面」で探すほうが結果的に早い。これは多くの移住者が通ってきた道です。
そして、家は決めたら終わりではありません。オランダでは引っ越しのハードルが日本ほど高くなく、住んでみて合わなければ動く人も少なくありません。最初の一軒で完璧を目指すより、まず住民登録ができる場所を確保して生活を立ち上げ、街に慣れてから次を考える。そのくらいの構えのほうが、この市場では現実的です。