就職・キャリア

アムステルダムとデン・ハーグでの職探し

二つの都市で求人の性格はどう違うのか、そして実際に通用する進め方

オランダで働きたい。そう考えて求人サイトを開くと、最初に気づくのは求人の多さです。そして次に気づくのが、そのほとんどに応募できないという現実です。

理由はひとつではありません。就労ビザの問題、オランダ語の問題、そして「この会社はビザのスポンサーになれるのか」という問題。この3つを整理しないまま応募を続けると、書類が通らない理由がわからないまま時間だけが過ぎていきます。

この記事では、アムステルダムとデン・ハーグという二つの都市を軸に、ビザから逆算した職探しの進め方を整理します。求人サイトのリストではなく、「どの順番で何を確認するか」の話です。

先に結論

4つだけ、先に書いておきます。

第一に、求人を探す前にビザの型を決めてください。どのビザで滞在するかによって、応募できる求人がまったく変わります。

第二に、英語だけで探せる求人は確かにありますが、業種は限られます。IT、エンジニアリング、専門職は英語のみの求人が豊富ですが、人と接する仕事やローカル企業では話が違います。

第三に、アムステルダムとデン・ハーグでは求人の性格が根本的に違います。都市を選ぶことは、業界を選ぶことにほぼ等しい。

第四に、オランダの採用は人脈経由の比重が高い。表に出ない求人が相当数あります。

アムステルダム南部のビジネス地区ザウダス
アムステルダム南部のビジネス地区ザウダス
Guilhem Vellut / CC BY 2.0 — Wikimedia Commons

第1部:ビザから逆算する

高度技能移民(kennismigrant)ルート

非EU国籍者がオランダで働く際の主要ルートです。特徴は、労働市場テスト(オランダ人やEU市民で埋まらないことの証明)が不要で、手続きが速いこと。書類が揃っていれば2週間から4週間程度で処理されます。

ただし条件があります。

雇用主がIND(移民帰化局)の認定スポンサー(erkend referent)である必要があります。そして、給与が定められた基準額を超えていなければなりません。2026年時点の月額総支給の基準は次のとおりです。いずれも8パーセントの休暇手当を除いた金額です。

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  • 30歳以上:5,942ユーロ
  • 30歳未満:4,357ユーロ
  • オランダの大学卒業者、または探索年(zoekjaar)を経た人などの軽減基準:3,122ユーロ

2025年から2026年にかけて、基準額は4.5パーセント前後引き上げられました。毎年1月に改定されるため、内定を受けた時点ではなく申請時点の基準が適用される点に注意が必要です。

もうひとつ、2026年から実務が厳格化されています。認定スポンサーは、給与が実際に従業員の口座へ支払われたことの証拠を保持する義務を負うようになりました。給与明細だけでは不十分で、銀行の取引明細などが求められます。したがって、給与は必ず本人名義の口座に直接振り込まれる必要があり、複数口座への分割や現金払いは認められません。

また、基準額は「固定の総支給額」で判定されます。ボーナスや歩合、変動給は算入されません。

「スポンサーシップ有無」の確認が最初の関門

求人票に「Visa sponsorship: No」「Candidates must already reside with valid work authorisation」といった記載を見かけることになります。これは形式的な注意書きではなく、実質的な足切りです。INDは認定スポンサーの一覧を公開しています。応募先を探す段階でこの一覧を確認し、対象企業に絞って動くほうが、結果的に早い。スポンサー登録には企業側にも手間とコストがかかるため、登録していない会社が非EU国籍者のために新たに登録するケースは稀です。

なお、2026年以降は認定スポンサーの新規登録要件そのものも厳格化される方向にあり、オランダ経済への寄与を問う経済関連性テストの導入などが議論されています。

職を失ったときの猶予

高度技能移民として滞在している人が職を失った場合、新しい職を探すための猶予期間が設けられています。おおむね3か月です。この期間内に新しい認定スポンサーのもとで許可を再申請できなければ、滞在許可の取消し手続きに進む可能性があります。

3か月は短い。とくに退職条件の交渉や前雇用主との調整が並行する場合、あっという間に過ぎます。契約終了の話が出た時点で動き出すのが鉄則です。

探索年(zoekjaar)

オランダの大学を卒業した人、または世界上位200校に入る海外大学を卒業した人向けの、1年間の滞在許可です。この期間中に高度技能移民として就職先を見つけることを目指します。

探索年を経た人には前述の軽減基準(3,122ユーロ)が適用されるため、新卒での就職ハードルは大きく下がります。オランダの大学院に留学してからの就職という経路が実際に機能しているのは、この仕組みがあるためです。

自営業ルート(日蘭通商航海条約)

日本国籍者にとって重要なのがこのルートです。

オランダには自営業者向けの滞在許可がありますが、通常はポイント制の評価を受けます。個人の経歴、事業計画、オランダ経済への付加価値などを点数化するもので、ハードルは低くありません。一方でINDは、米国民向けの日蘭友好通商航海条約(DAFT)と並んで、日蘭間の条約に基づく自営業ルートを明示的に認めています。この条約ルートは、ポイント制の総合評価を経ずに申請できるため、フリーランスや小規模事業者にとって現実的な選択肢になります。

実務上の要件としては、商工会議所(KvK)への事業登録と、一定額の資本の投下が求められます。投資額の水準は事業形態によって異なり、多くの形態では数千ユーロ規模が目安とされています。また、初回申請者は滞在許可を得てから一定期間内に登録と投資を完了する必要があり、更新時には年次の会計書類で事業が実際に活動しているかが確認されます。

条件の詳細は変更されることがあるため、実際の申請にあたってはINDの最新情報と専門家の確認を必ず取ってください。

その他のルート

配偶者やパートナーの滞在許可に付随して滞在する場合、就労権が付与されることがあります。高度技能移民の配偶者は就労できるのが一般的で、この場合は給与基準の制約を受けません。応募できる求人の幅は、本人がスポンサーを必要とする場合よりずっと広くなります。

ワーキングホリデーで滞在する人もいます。期間は限られますが、現地での職務経験と人脈をつくる期間としては機能します。

第2部:アムステルダムとデン・ハーグは何が違うか

アムステルダム:国際企業とテックの街

多国籍企業のヨーロッパ本社や地域統括拠点が集まっています。IT、金融、物流、マーケティング、ホスピタリティ。社内の共通言語が英語という職場が多く、英語だけで働ける求人が最も見つけやすい都市です。

スキポール空港周辺とホーフドルプには物流関連の拠点が集中しています。そしてアムステル

フェーンには日系企業のヨーロッパ拠点が集積しており、日本語を使う求人はこのエリアに多く出ます。

日本語を使うポジションは、商社の物流担当、日系金融機関のコーポレート営業やキャッシュマネジメント、メーカーの人事や企画、カスタマーサポートといった職種が中心です。給与レンジは職種と経験によって大きく開き、事務系のサポート職で3万5千ユーロ前後から、管理職クラスで9万ユーロ規模まで幅があります。

ただし、日系企業の求人であっても「ビザサポートなし」「オランダで就労可能なビザをお持ちの方」という条件が付いていることは珍しくありません。日本語ができれば入れる、という前提は成り立ちません。

デン・ハーグ:政府と国際機関の街

性格がまったく異なります。中央政府の官庁、各国大使館、そして国際機関が集中しています。国際刑事裁判所、国際司法裁判所、化学兵器禁止機関、欧州刑事警察機構(ユーロポール)、欧州司法機構といった組織が拠点を置いています。エネルギー分野の大手企業の拠点もあります。

「国際都市で働きたい」という動機でデン・ハーグを考える人は多いのですが、ここには重要な注意点があります。

EU機関やEUの機関に準じる組織の職員採用は、原則としてEU加盟国の国籍を要件としています。日本国籍者が応募できるポストは限られます。国連系の機関であれば国籍要件は異なりますが、競争率は高く、多くのポストで関連分野の高度な専門性と実務経験が求められます。

オランダ政府の機関や自治体の仕事は、オランダ語が必須であることがほとんどです。

つまりデン・ハーグは、専門性と資格が明確にある人には強い選択肢である一方、「英語ができるので国際機関で働きたい」という漠然とした動機では入口が見つかりにくい街でもあります。

都市を選ぶということ

現実的な整理をすると、こうなります。

英語で働ける一般的な求人の量を優先するなら、アムステルダム。日本語を使う仕事を探すなら、アムステルダムとアムステルフェーン。国際法、外交、安全保障、開発といった分野の専門性があるなら、デン・ハーグ。物流や化学の実務経験があるなら、ロッテルダム周辺も視野に入ります。

なお、オランダは交通費補助を出す会社が多く、離れた街から通勤する人が珍しくありません。住む場所と働く場所を必ずしも一致させる必要はない、という点は日本と違うところです。

第3部:オランダ語は必要か

答えは「職種による」ですが、もう少し具体的に書きます。

英語だけで探せる領域 IT、エンジニアリング、データ、金融の専門職、多国籍企業のバックオフィス。労働力不足が続いており、技術者と専門職は引く手あまたの状況が続いています。EU圏内からの人材も重要な働き手になっています。

オランダ語が事実上必須の領域 接客業、医療・福祉、教育、公的機関、そして規模の小さいローカル企業。求人票が英語で書かれていても、実際の職場でオランダ語が飛び交うポジションは多くあります。

さらに厳しい求人 英語とオランダ語に加えて、ドイツ語やフランス語といった第三言語を当然のように求めてくる求人も存在します。ヨーロッパ全域を担当するカスタマーサポートや営業では珍しくありません。

そして正直に書いておくべきことがあります。面接まで進み、手応えもあったのに、オランダ語ができないという理由で不採用になることは普通に起こります。これは差別ではなく、業務要件です。応募段階でその要件を見極めておくほうが、消耗しません。

デン・ハーグの中心部と官庁街
デン・ハーグの中心部と官庁街
Zairon / CC BY-SA 4.0 — Wikimedia Commons

第4部:どこで探すか

LinkedIn

オランダの職探しでは避けて通れません。使い方は求人検索だけではなく、むしろ人脈づくりが本体です。

オランダでは、表立って求人を出さず、すでに働いている社員の紹介で人を探すケースがよくあります。友人、元同僚、知人からの紹介があると採用の可能性が上がる。人脈があると有利になるのがオランダの職探しです。

また、面接が決まった段階で、その企業のページから面接官や配属予定部署の人を事前に確認しておくと、準備の精度が上がります。

求人サイト

一般的な求人サイトのほか、オランダには都市別の国際向け求人サイトがあり、アムステルダム版とデン・ハーグ版がそれぞれ存在します。英語話者向けの求人が集まりやすいのが特徴です。

人材紹介会社

オランダには人材紹介会社が数多くあります。外国人向けに特化した会社もあり、デン・ハーグに拠点を置いて30年以上の実績を持つ会社など、地域に根ざしたエージェントも存在します。

派遣会社(uitzendbureau)も一般的なルートです。学生や若年層向けに特化した会社もあり、まず短期の仕事で滞在実績と現地の職歴をつくるという使い方ができます。

日本語案件のルート

日本語を使う求人には、専用のチャネルがあります。

日系の人材紹介会社がアムステルダムに拠点を構えており、日系企業、外資系、グローバル企業の案件を扱っています。ロンドンを拠点にヨーロッパ全域の日本語関連求人を扱う会社もあり、オランダの案件も掲載されます。

このほか、在蘭日本商工会議所の求人情報、日本語コミュニティの掲示板、日本語の求人検索サイトがあります。飲食店やサービス業の求人はこうした掲示板に集まりやすく、渡航直後の入口としては現実的です。

前提として付け加えておくと、日本食レストランなどでまず働き始めて、そこから人脈と情報を得るという経路は、実際に多くの人が通っています。思い描いた未来ではなかったとしても、社会的なつながりを持つこと自体が、その後の職探しを支える基盤になります。孤立したまま応募を続けるのが最もつらい、というのは経験者が共通して語ることです。

第5部:応募と選考の実務

書類

履歴書は英語でCVを作成します。2ページ以内に収めるのが一般的で、日本の履歴書と違って写真は付けないのが標準です。年齢や配偶者の有無も必須項目ではありません。

職務経歴は、担当業務の羅列ではなく、成果を数字で示す形式が好まれます。カバーレター(モチベーションレター)を求められることも多く、なぜその会社なのか、なぜそのポジションなのかを具体的に書く必要があります。

求人票の読み方

いくつか確認すべき項目があります。

ビザスポンサーシップの有無。契約形態が有期(bepaalde tijd)か無期(onbepaalde tijd)か、あるいはフリーランス契約(ZZP)か。必須要件と歓迎要件が分けて書かれている場合、後者は満たしていなくても応募して構いません。

給与の表記は総支給(bruto)です。ここから税と社会保険料が引かれます。8パーセントの休暇手当は別途支払われるのが通常で、13か月目の給与を出す会社もあります。

通勤時間の感覚に注意

日本の感覚で判断すると失敗する項目です。

面接で「片道1時間半かかりますが通えます」と伝えて、それが理由で不採用になった、という話は複数の国から来た人が経験しています。国土の小さいオランダでは、通勤1時間半は現実的でないと受け取られます。加えて、電車の遅延が日常的であることも背景にあります。

前向きなアピールのつもりが、定着しない候補者だと判断される。この点は意識しておくべきです。

給与交渉と税制

給与を検討する際は、30パーセントルーリング(現在の正式名称はexpatregeling)の適用可否を必ず確認してください。給与の一部を非課税手当として受け取れる制度で、手取りが大きく変わります。

ただしこの制度は変更が続いています。2026年中は非課税率30パーセントが維持されますが、2027年1月からは一律27パーセントに下がります。また、適用には課税給与の下限要件があり、非課税手当を差し引いた後の金額で判定されます。高度技能移民の給与基準とも関係するため、額面の設計には注意が必要です。詳細は雇用主の人事部または税務アドバイザーに確認してください。

第6部:働き始めるまでの手続きの順番

内定が出てから実際に給与が振り込まれるまでには、いくつかの段階があります。順番を間違えると詰まります。

  1. 住居を確保する(住民登録には住所が必要)
  2. 自治体で住民登録を行い、BSN(市民サービス番号)を取得する
  3. BSNをもとに銀行口座を開設する
  4. 雇用主に口座情報を提出する(給与は本人名義の口座への直接振込が必要)
  5. DigiDを取得する(税務申告や行政手続きに必要)
  6. 住民登録から4か月以内に基本健康保険に加入する

住居が確保できないと住民登録ができず、住民登録ができないとBSNが出ず、BSNがないと口座が開けない。アムステルダムの住宅難がしばしば就労開始の遅れにつながるのは、この連鎖のためです。内定と並行して住居探しを進める必要があります。

第7部:チェックリスト

準備段階

  1. 自分がどのビザルートで滞在するかを確定する
  2. 高度技能移民ルートなら、年齢に応じた給与基準額を確認する
  3. 自営業ルートなら、条約に基づく申請の要件をINDの最新情報で確認する
  4. 英語のCVを作成する(2ページ以内、写真なし、成果を数字で)
  5. LinkedInのプロフィールを英語で整える

探索段階

  1. 認定スポンサー企業に絞って応募先をリストアップする
  2. 求人票のビザスポンサーシップ欄を必ず確認する
  3. オランダ語要件の有無で求人を仕分ける
  4. 人材紹介会社に複数登録する(一般向けと日本語案件向けの両方)
  5. 現地のコミュニティやイベントに顔を出し、人脈をつくる

選考段階

  1. 通勤時間を現実的な範囲で答えられるよう、住む場所の候補を持っておく
  2. 給与提示を受けたら、30パーセントルーリングの適用可否を確認する
  3. 契約形態と契約期間を確認する

内定後

  1. 住居、住民登録、BSN、銀行口座の順で進める
  2. 健康保険の加入期限(住民登録から4か月)を守る

まとめ

オランダの職探しで最も消耗するのは、応募しても反応がない期間です。求人サイトで15件応募して面接にも呼ばれない、という状況は珍しくありません。

ただ、その原因の多くは能力ではなく、条件のミスマッチです。スポンサー登録のない企業に応募していた。オランダ語必須の求人だった。給与基準に届かないポジションだった。この3つを最初に潰しておくだけで、応募の歩留まりは変わります。

そしてもうひとつ。オランダでは労働力不足が続いており、技術者や専門職は求められています。40代半ばを過ぎてからの転職も、能力と経験が合致すれば普通に起こります。年齢で機会が閉じる社会ではありません。

問題は「オランダで働けるかどうか」ではなく、「自分の専門性が、この国のどの需要と噛み合うか」です。その一点を見極める作業に時間を使うほうが、闇雲に応募数を増やすより早く着地します。

本記事のビザ要件、給与基準額、税制に関する記述は執筆時点のものです。給与基準額は毎年改定され、制度要件も変更されます。実際の申請や判断にあたっては、IND(移民帰化局)の最新情報を確認のうえ、必要に応じて移民法や税務の専門家にご相談ください。

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